Beranda / 恋愛 / 解けない恋の魔法 / 第六章 特別で大切なもの 第一話

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第六章 特別で大切なもの 第一話

Penulis: 夏目若葉
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-17 09:50:27

 宮田さんが適当においしそうなお料理をお皿に取り分けて、私にそれを手渡してくれた。

 こんな豪華すぎるパーティに来たのも初めてならば、男の人にこうやってお料理を取ってもらうことも初めてだ。

 私に一目惚れをしていた、みたいなことも言われたし……。

 先ほどから緊張とドキドキで、どうにかなりそう。

 だけど浮き足立ってばかりはいられない。

 お皿はきちんと持って、こぼさないように注意しないと。

 私の不注意でこのドレスを汚してしまうことだけは避けなければいけないから。

「このお肉にかかってるソース、おいしいよ」

 隣に居る宮田さんは、無邪気にそんなことを言いながらお肉を頬張る。

 つい先ほどまで照れていたのに、今はもう何食わぬ顔だ。

 私もそろそろ、意識しすぎるのは疲れるからやめよう。

 ひとつ大きく深呼吸をして、何気なく会場内を見渡したときだった ―――

「……え……」

 私はとある一点を見つめたまま、動けなくなってしまった。

 一瞬で、あの人だとわかったのに……

 もうひとりの私が、そんなはずはないとそれを打ち消す。

 ……きっと違う。似てるだけで別人だ。

「朝日奈さん? どうしたの?」

 じっと一点を見つめたままの私に、隣に居た宮田さんが不思議そうに声をかける。

 そして、私が見ている同じ方向に、なにがあるのだろうと視線を移した。

「……あ、岳(がく)だ」

 隣でそう呟いた宮田さんに、驚いて今度は私が宮田さんを見上げる。

 彼はいつも通り人懐っこい笑みを浮かべていて、視線の方向は変えないままだ。

「おーい、岳ー!」

 軽く手を上げて、その視線の先にいる誰かに無邪気に合図を送る。

 もしかして、私が見ていた人と宮田さんが合図している人は違うかもしれない。

 そう思ったのに……

 宮田さんの声と合図に気づいてこちらに近づいてくる人は、スラリとした長身のイケメンで、偶然にも私の視線の先にいた人と同じだった。

「お知り合い……ですか?」

 そっと宮田さんにそう尋ねると、笑顔で「うん」と首を縦に振る。

「昴樹くん、久しぶり!」

「うん、久しぶりだなぁ! 岳に会えるなんて思わなかった」

「なんかカッコよくなってんじゃん。ワックスで髪遊ばせてるし」

「なに言ってんだよ、岳のほうがよっぽどイケメンのくせに」

 久しぶりに会ったらしい二人は、再
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    「あ、紹介するよ。こちら、二階堂(にかいどう)岳。彼もデザイナーなんだ。六年前からアメリカに行っちゃって滅多に帰ってこないから、僕も会うのは久しぶりなんだけど」 そう紹介された二階堂さんが、私ににっこり微笑んだ。「初めまして。二階堂です」 「朝日奈……緋雪です」 自己紹介する声が震えた。  彼の綺麗な笑顔が、私にその事実を決定づける。  彼は……きっとあの人だ。  私が八年前にチャペルで見かけた、名前も知らない綺麗な男性モデル。 八年ぶりに見た彼はビックリするほど大人になっていて、男の色気がふんだんに振りまかれていた。  だけど笑った爽やかな顔は、当時のままだ。  ずっとまた会いたいと思っていた憧れの人に、再び偶然会ってしまった。  どうしてそれがここで、今日なのだろう。  そのことが信じられなくて、私は視点が定まらず、挙動不審になってあわてた。「朝日奈さん?」 「ごめんなさい。なんでもないです」 「そう? えっと、どこまで話したっけ。そうそう、岳とは同じ美大のデザイン科だったんだ。彼のほうが二歳年下だけど。今もカッコイイけど、昔から岳はイケメンで。そうだ、たしか昔はモデルもやってたって言ってなかったっけ?」 「うん、ちょっとだけ。バイトだよ。もちろん今はやってない」 ……昔、モデルをやっていた。  今のふたりの会話が、私にとっては決定打だ。  会いたかった人にやっと会えたのだから、私も極上の笑みを彼に向ければいいのに。  なぜだろう……それが出来ずに苦笑いになる。  上手く笑おうとすると、動揺で顔が引きつりそうだ。 ずっと彼の顔を見ていたい衝動にかられるけれど、見入ってしまえば緊張で手が震える。  震える手元を見られたくなくて、私は持っていたお皿とグラスをすぐ傍のテーブルの端に置いた。「どうしたの?」 私の様子がおかしいと気づいたのか、宮田さんがもう一度そっと声をかける。「どうもしないですよ」と、愛想笑いをしながら首を横に振ってみたけれど、彼は怪訝な表情で私にじっと視線を向けていた。  この漆黒の瞳に射貫かれると、なにもかも見透かされそうだ。 「もしかして……」 「……え?」 「岳がそうなの?」 「……」 ほかの人が聞いても絶対にわからない質問内容だったけれど、私には彼がなんのことを言っているのかす

  • 解けない恋の魔法   第六章 特別で大切なもの 第一話

     宮田さんが適当においしそうなお料理をお皿に取り分けて、私にそれを手渡してくれた。  こんな豪華すぎるパーティに来たのも初めてならば、男の人にこうやってお料理を取ってもらうことも初めてだ。  私に一目惚れをしていた、みたいなことも言われたし……。  先ほどから緊張とドキドキで、どうにかなりそう。 だけど浮き足立ってばかりはいられない。  お皿はきちんと持って、こぼさないように注意しないと。  私の不注意でこのドレスを汚してしまうことだけは避けなければいけないから。「このお肉にかかってるソース、おいしいよ」 隣に居る宮田さんは、無邪気にそんなことを言いながらお肉を頬張る。  つい先ほどまで照れていたのに、今はもう何食わぬ顔だ。  私もそろそろ、意識しすぎるのは疲れるからやめよう。  ひとつ大きく深呼吸をして、何気なく会場内を見渡したときだった ―――「……え……」 私はとある一点を見つめたまま、動けなくなってしまった。 一瞬で、あの人だとわかったのに……  もうひとりの私が、そんなはずはないとそれを打ち消す。  ……きっと違う。似てるだけで別人だ。「朝日奈さん? どうしたの?」 じっと一点を見つめたままの私に、隣に居た宮田さんが不思議そうに声をかける。  そして、私が見ている同じ方向に、なにがあるのだろうと視線を移した。「……あ、岳(がく)だ」 隣でそう呟いた宮田さんに、驚いて今度は私が宮田さんを見上げる。  彼はいつも通り人懐っこい笑みを浮かべていて、視線の方向は変えないままだ。「おーい、岳ー!」 軽く手を上げて、その視線の先にいる誰かに無邪気に合図を送る。 もしかして、私が見ていた人と宮田さんが合図している人は違うかもしれない。  そう思ったのに……  宮田さんの声と合図に気づいてこちらに近づいてくる人は、スラリとした長身のイケメンで、偶然にも私の視線の先にいた人と同じだった。「お知り合い……ですか?」 そっと宮田さんにそう尋ねると、笑顔で「うん」と首を縦に振る。「昴樹くん、久しぶり!」 「うん、久しぶりだなぁ! 岳に会えるなんて思わなかった」 「なんかカッコよくなってんじゃん。ワックスで髪遊ばせてるし」 「なに言ってんだよ、岳のほうがよっぽどイケメンのくせに」 久しぶりに会ったらしい二人は、再

  • 解けない恋の魔法   第五章 パーティの魔法 第十話

     でも、ちょっと待って。  あの雑誌の中の私を見て、デザインを描き始めたっていうの?  あの時点では、私たちがこうして仕事上繋がりができるなんてまだわからなかったのに。 宮田さんのほうから私に接触を試みたならまだしも、最上梨子にブライダルドレスのデザインを依頼するためにアポを取って接触したのは私のほうだ。「朝日奈さんと初めて会ったとき……大袈裟かもしれないけど運命だと思った。僕が一目見て、想像を掻き立てられる女性が雑誌の中にいたと思っていたら、その一週間後に実物が目の前に現れたんだから」 にわかに信じがたいことを、宮田さんの口から語られる。  私は唖然と聞いているしかできないでいた。「初めて会った日、いつか僕のデザインしたドレスを着てもらえたらなって思った。実際に採寸したわけじゃなかったから、詳しいサイズはわからないままだったけど、朝日奈さんと同じ身長の女性の平均的なサイズでパタンナーに依頼をかけたんだ。縫製は僕も少し携わった。だからこんなに早く仕上がったんだよ」 初めて会った日に、私の身長から大体でサイズを決めたの?  そんなにアバウトに型紙を起こしてしまって、実際にサイズが合わなかったら……。  というか、着る機会さえなかったら、どうしていたんだろう?「ちょうどドレスが出来上がったときに、香西さんからこのパーティの招待があってね。朝日奈さんが一緒に行ってくれるなら、このドレスを着てほしいと思った」 「でも、あの試着のとき……宮田さんはどれでも私が好きなのを選んでいいって」 「そうは言ったけど……僕は最初からこのドレスをさりげなく勧めるつもりだったよ。だって僕にとっては自信作だし、こんなに似合うんだから」 そう言って、サラリとドレスのスカートの部分に触れられて、ドキっと心臓が跳ね上がる。「今気づいたんだけどさ、こういうの、ほら……アレだよ、アレ」 「なんですか?」 「一目惚れ」 自分から言ったにも関わらず、宮田さんは照れたのか顔を赤くする。  私に一目惚れ? ………信じられない。 なんとなくあいた間が嫌で、ドッキリですか?と冗談めかして言おうとしてやめた。  だって……  赤くした顔をプイっと逸らせて恥ずかしそうにする彼を、不覚にも素敵だと思ってしまったから。

  • 解けない恋の魔法   第五章 パーティの魔法 第九話

     それに……以前に宮田さんが言っていた言葉をふと思い出した。『このドレスもネックレスも、朝日奈さんしか着ないし付けないし。ほかの人は誰であってもこれを身につけるのは僕が許さないよ』 たしかに……そう言ったんだ。  まるでドレスが、元々私のものであるかのように。「あの……宮田さん……」 目の前に広がる美味しそうな料理を堪能しようと、白いお皿を手にした宮田さんにそっと声をかけた。「どうしたの?」 「さっきのことなんですけど」 「ん?」 ほんの数分前の出来事なのに、香西さんとの会話の内容は頭からすっかり抜け落ちたみたいな反応だった。「さっき香西さんに仰っていたことです。このドレスが……私のためのものだ、って。本当ですか?」 「あー……うん、そう」 頷くように首を縦に振った宮田さんは、また少し顔を赤くした。  それは先ほど香西さんに見せたものと同じ顔だ。「でも、事務所で試着したときには、ひと言もそんなこと言わなかったじゃないですか。あのとき、私の体のサイズでも入るドレスを出してきてくれただけだとばかり……」 このドレスを試着する前、宮田さんは私の肩と腰に触れて体格を目で測っていたはず。  あの計測の元、このドレスが選ばれたんじゃなかったの?!「恥ずかしかったんだよ。特定の人をイメージしてドレスを作ることなんて今まで散々やってきたのにね。好きな女性に着てもらうために、ドレスを一から制作したのは初めてだった。でも……君のために作ったよ、って堂々と口にするのは、いざとなったらなんだか照れくさくてさ」 「ちょっと……待ってください」 信じられない。  本当に私をイメージして、一から作ったって言うの?「いくらなんでも、出来上がるのが短期間すぎます。私と出会う前からデザインを描いていたとしか考えられませんけど……」 私の存在など関係なしにデザインが描かれていたならば、私をイメージして……というには語弊があると思うけれど。「デザインは、朝日奈さんと出会う前に描き終わってたよ」 「……え?」 「ほら、雑誌。あの紙面の中の朝日奈さんを見ていたら、このドレスのデザインがどんどん頭に浮かんできちゃってね」 そうか、あの……雑誌。  袴田部長に騙されて受けた例の取材のときのやつだ。

  • 解けない恋の魔法   第五章 パーティの魔法 第八話

    「売り出したり、ショーに出す予定はないですよ」 「は? どうしてだ? ここまで良い出来なのに」 「元々そういうつもりで作ったものじゃないからです」 宮田さんの発言には、香西さんも驚いたように目を丸くして黙り込んでいた。  私もそれには激しく同意で、じゃあなぜこのドレスを作ったのかと不思議に思う。  たまたま良いデザインが描けたから?  だったら、ショーに出してお披露目してもいいはずなのに。「え……そういうことか?」 「……はい」 「彼女のために?」 「はっきりそう言われると照れますけど」 今の二人の会話は、一体どういうこと??  照れる、と言った宮田さんを見ると少し顔を赤らめていて、私だけが会話の意味がわからずにポカンとしてしまった。「だからか。サイズも、彼女の雰囲気にも、ドレスがぴったりと当てはまってるのは」 「えぇ」 「最上梨子に全身包まれてる、って感じだな。朝日奈さんは君の愛がたっぷりと込められたドレスを着ているわけだ」 微笑ましいものを見るように、香西さんは私と宮田さんに笑顔を向けるけれど。  私の脳はそれを理解する処理が非常に遅くてついていけない。  香西さんがほかのパーティ客に挨拶するために私たちの元を離れたあと、やっと言われてる意味がわかりだした。  宮田さんは、このドレスを……… ――― 私のためにデザインし、作ったということ? 隣にいる宮田さんをそっと盗み見るけれど、既にその表情はいつも通りの飄々としたもので、本当はどうなのか、何を考えているのかは私には読めない。  だけど、香西さんと宮田さんの会話を頭の中に再び思い浮かべて考えてみると、どうしても先ほどの結論に至る。 いや、でも……それはありえない。  いくら遊び感覚で作ったものだと言っても、私のイメージに合わせてデザインを考え、パタンナーに型紙を起こしてもらい、縫製をしてだなんて……。 例えこのドレスが慌てて作ったサンプル品だったとしても、仕上がってくるまでの期間が短すぎる。  私と宮田さんは、初めて顔を合わせてから一ヶ月と少ししか経っていない。  百歩譲って私と初対面の日からデザインを考え始めたとしても、私が先週デザイン事務所の衣裳部屋を訪れたときには、すでにあそこの部屋にこのドレスは存在していた。  こんなに完璧に、きちんと縫製されて

  • 解けない恋の魔法   第五章 パーティの魔法 第七話

    「こちらの可愛らしい方は? 君の恋人?」 私に視線を移し、香西さんが紳士的で素敵な笑みを浮かべる。「そうだといいんですけどね。残念ながら違います」 「でも君が女性と一緒だなんて初めて見たよ。君は本当は男が好きなんじゃないかって、俺は疑い始めてたんだけどね」 「冗談じゃないですよ。やめてください」 宮田さんがそう答えると、香西さんは愉快そうにワハハと笑った。  本当にあったんだ……ゲイ疑惑。「初めまして。リーベ・ブライダルの朝日奈と申します」 「どうも。香西です。……リーベ・ブライダルさん?」 「実は今、ブライダルドレスのデザインをやってるんです」 その宮田さんの言葉に、ハッと驚いて視線を向けた。  彼は今、『僕』と名乗ったから。  今の発言は……大丈夫なんだろうか。「あ、大丈夫だよ。香西さんは僕の正体を知ってるんだ」 「そ、そうだったんですか」 咄嗟に宮田さんが失言したのかと思った。  自分が最上梨子であると、口を滑らせたのかと思ったのだけれど違ったらしい。  ホッと胸を撫で下ろす。焦って損した。  びっくりするから、そういうことは事前にこちらに言っておいていただきたい。「君の恋人じゃないなら、俺が彼女の恋人に立候補しようかなぁ」 楽しそうな笑みを貼り付けて、香西さんが腕組みをしながらそんな冗談を言う。「ダメですよ。僕が口説いてる最中なんだから」 いや、口説かれている実感はあまりありませんよ。  からかわれている実感なら十分ありますけど。「口説くのに、順番なんてあるのか?」 「ていうか、香西さんには綺麗な奥さんがいるでしょ!」 「あれ、そうだったか」 「そんなこと言ってても奥さんにベタ惚れなの、知ってますからね」 宮田さんがムッと口を尖らせてそこまで言うと、香西さんは再び噴出すように笑った。  いつも私をからかってばかりの宮田さんが、香西さんと話していたらからかわれる立場に逆転だ。  そんな珍しい姿を見ると、おかしくて私も笑みが零れる。「冗談冗談。君が彼女を好きなのはすぐにわかったよ。今日の彼女、君のトータルコーディネートだろ?」 そう言いながら、香西さんは私のドレスのほうへ視線を下げる。「いいじゃないか、このドレス。もしかして……これか? 最近作った自信作っていうドレスは」 「はい。そうです」

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